毎日乗れる「マクラーレン 570GT」ちょっぴりセンチメンタルな物語。

存在するだけで絵になるのがスーパーカー。そこにすてきな女性が現れれば気の利いた物語が生まれます。今月はマクラーレン570GTと、久方ぶりの再会を果たした女性が織りなすちょっぴりセンチメンタルな物語。

トップス4万8000円、スカート6万3000円/ともにエンポリオ アルマーニ(ジョルジオ アルマーニ ジャパン)イアリング29万円、ペンダント98万円/ともにエム/ジーTASAKI(TASAKI)時計222万4800円(税込)/ジャケ・ドロー(ジャケ・ドロー ブティック銀座)パンプス7万7000円/セルジオロッシ(セルジオロッシ カスタマーサービス)

ドライブ前から何を着るか悩ましかった。ミッドナイトブルーのモナコヨットクラブ製ポロ、アルマーニのサングラス、プラダのホワイトパンツ、足元はソレントで買ったオレンジのデッキシューズ。そしてマクラーレン570GT。乗車時の所作に心躍る。

秘めたドアオープンボタンをタッチする。前ヒンジで跳ね上がるディへドラルドア。ドライバーシートに収まるとフロントウィンドウからの視界が刺激的だ。どこかF40に類似する。2017モナコF1GP、予選終了後のボートでのデッキパーティ。

エクスタシーへと導くフェラーリF1のエキゾーストノート、破裂音が勢いを増すメルセデス、穏やかなビブラートのマクラーレン。ヌーベルシケインで減速し、シケインを抜け加速するF1マシンたち。

モナコ・エルキュール港に並ぶメガヨットは、モンテカルロのホテル群とプロバンスの山々と王宮の丘がサラウンド効果をもたらすF1交響楽団のアリーナ席となる。夕方になるとゲストが集まり、DJや生バンドが入りクラブ状態となる。

この船もクリュグで軽く始めている。縁あって購入したクラシカルなメガヨット、モナコF1に合わせてのお披露目。数十人のゲストのカジュアルパーティ。モナコ、フランス、イタリア、国籍の異なる友人の中にモナコ人と連れ立つ彼女がいた。シャンパンを片手に挨拶する。
「驚いた、ここで会えるとは……」

「私もよ、青山以来ね」

「あの時も偶然だった」

偶然が氷結を溶かす。青山のB&Bイタリアにオープンしたワインバー「bar&b」のオープニングパーティ以来だった。

知り合いのイタリア人がマネージングする会員制ワインバー、その招待客として現れたのが彼女。お互い顔見知りであることを秘め、外資系金融機関に勤める才女と紹介された。その時の会話を思い出す。

「あの時以来か、僕は喪失感の中でクルマへの関心をなくして……」

5年前、ザ・リッツ・カールトン東京のクラブラウンジでファンドマネージャーとして彼女を紹介してくれた投資家のあいつ。かつてはともに夢を語りレーシングチームもサポートした。あいつは2年前、患いの後、他界した。
別れの席以来の「bar&b」だった。夜が更けてもエルキュール港は光と音の渦の中。VIP用のシャトルボートに乗る彼女に囁いた。

「今度は偶然でなく会いたい」

帰国後、ショートメールをした。

「やっとお気に入りのクルマを手に入れた、ドライブしないか」

エンツォ存命中のファイナルフェラーリ、F40。そのライバル、若きロン・デニス作品のマクラーレンF1GTR。圧倒的な強さを見せた1995年ル・マン24時間レース。自分たちがサポートしたF40GTEは惨敗。仇であるマクラーレンに関心が生まれたのはあいつが残した一言だった。

「俺もいよいよやばいかな。F40はイタリアに戻してくれ、残念なのはマクラーレンというやつに乗ったことがないことだ」

あいつの他愛もない言葉が遺言となった。二人ともF1とル・マン24時間レースが好きだった。おまけにGTという名がスポーツカーの代名詞として頭に入っていた。未だその響きに魅かれる。ミドシップならなおさら。
あいつが乗れなかった、いや乗らなかったマクラーレン。あいつのラッキーカラーはオレンジ。マクラーレンF1もオレンジ&ブラック。外装色は迷うことなくベンチュラオレンジに。インテリアはジェットブラック、サルテグレー、カペラオレンジのトーンコントロール。

あいつも納得するだろう。夏の終わりに返事が来た。「1週間後、ペニンシュラでお待ちします。午後5時に」首都高速目黒線。荏原から入り最初の右コーナーで3速ご法度速度、緩やかに上ると高速左コーナー、さらに左と続く。

センターコンソールのモード切替、左のステアリング、ダンパーのモードはスポーツ、右のエンジンコントロールもスポーツモード。総てACTIVEに。

もう40年も前からこのルートは体に染みこんでいる。ステアリングのダイレクト感がアナログなフィーリングを残していて懐かしい。突き抜けるエキゾーストノート、天現寺の合流を交わし、緩やかなS字、タイトな左コーナー、総てが心地よい。一の橋で東京タワーが眼前に広がる。国会議事堂前で首都高速から離脱。
日比谷通りから晴海通り、石畳の丸の内仲通り、ペニンシュラの裏口に止めてショートメールを入れる。しばらくして彼女が出てきた。出迎える間もなく助手席ドアを跳ね上げ、馨しい香りとともに乗り込んできた。

ただでさえ艶やかなオレンジのマクラーレンは美形のゲストで更に艶やかさを引き立たせている。首都高速に戻り、レインボーブリッジに差し掛かっていた。薄いオレンジを交えた青い空を迎えて、煌めく東京湾が広がりを見せている。

「スポーツカーとレースでは子供のような二人でしたね」

彼女がつぶやいた。あいつがレースのこと、趣味のボートのこと、あれこれと話したのだろう。

「あいつ、余計な事ばかり貴女に言ったんだろうね」

わがままな二人だが、そのわがままどうしが打ち消しあって上手くいっていた。レースは投資家がハマるにはそぐわない。夢の達成感しか生み出さないからだ。

「あの人、倒れる前にマクラーレンの話をしたわ。素晴らしいスポーツカーだって、F40が一気に時代遅れにされたと。でも自分は時代遅れのままでいいと言っていたわ」

湾岸高速を横浜へ。

「優しい乗り心地ね。硬さの中にしなやかさが隠れている……」

ハンドバッグ54万1000円/ トム ブラウン(トム ブラウン 青山)サングラス8万6000円/ レジャー ソサエティ(イー・ヴィ・アイ PR)

あいつはこのクルマを知らない。代わりに彼女が乗っている。ダンパーセッティングはスポーツモード。横浜港に向かって鶴見つばさ橋からベイブリッジへの緩やかな登り。シーソー式パドルで1速落とし、アクセルを踏み込む、どこまでも伸びやかに跳ね上がるレブカウンター。

トラックモードにする。レブカウンターは扇形に表示が変わり加速Gが二人をシートに張り付ける。レーシングサウンドを伴って横浜ベイブリッジを通過する。スピードへの耐性ができている彼女は静かに前を見つめている。

まるであいつといるようだ。幸浦のトンネル前から速度を落とし、話を始める。

「湾岸高速ができた頃、よくあいつと走ったよ。浦賀のヴェラシスマリーナのボートまでね」

彼女は微笑みを浮かべている。

「籍は入れなかったのか……」

「歳が離れすぎていたから」

あいつはこの女性を束縛しようとはしなかった。彼女が自由に生きることを望んでいた。

「今日は何も決めていない。どこに行くかも。貴女を連れてあいつと共にグランドツーリングをしたい、このクルマで」

彼女がこくりと頷いたように思えた。Bowers & Wilkins のスピーカー からLouis Armstrong の「What A Wonderful World 」が流れてきた。
マクラーレン570GT 

マクラーレン570GT 

全長×全幅×全高:4530×2095×1201mm、ホイールベース:2670mm、車
両重量:1480kg、エンジン:V型8気筒DOHCターボ3.8ℓ、最高出力:570ps/7400rpm、最大トルク:600Nm/5000-6500rpm、ホイール:(前)8.0J×19/(後)10J×20、タイヤ:(前)225/35ZR19/(後)285/35ZR20、価格2752万7000円(税込)/マクラーレン東京、マクラーレン名古屋、マクラーレン大阪、マクラーレン福岡

アルティメットシリーズ、スーパーシリーズ、スポーツシリーズと3つのラインを用意するマクラーレン。エントリーモデルとなるスポーツシリーズ第3のモデルが570GTです。570GTは、570Sにリアハッチを与えてラゲッジスペースを作り出した570Sのグランドツアラー版。

エンジンスペックは570Sと同じですが、足回りをソフトにセッティングするなど、快適性を重視したモデル。特筆すべきはリアハッチゲートで、ハンドル位置に応じて左右に横開きする珍しい仕様。これは奇をてらったものではなく、使用する際の実用性を考慮したもの。

車内はレザーが多用されてラグジュアリー。現在ラインアップされているどのマクラーレンよりも豪華で快適で実用性が高いのが570GTです。
スパルタンなインテリアのモデルが多いマクラーレンの中にあって、570GTは車内の至る所にレザーが使用される豪華仕様。スポーツシリーズはサイドシルも低くて狭い為、乗降性も高く、実用性に優れています。
ガラスハッチを持つファストバックスタイルとしたことで、570GTはキャビン後方に220ℓのラゲッジスペースを確保しました。ガラスハッチは右ハンドルなら左開き、左ハンドルなら右開きとなります。
文/山崎憲治
写真/北畠主税
スタイリング/BALENCIAKO