死ぬまで恋するレストラン◉麻布十番「歌京」

バブルをスマートに語れて熱くなる「Jポップ」デート

 あのイチローは言いました。「現役のうちは自分の過去を語ってはいけない」と。さすが世界的メジャーリーガー。我々のような凡人の艶(つや)ジジは、夜の〝現役〞にもかかわらず、過去を語りたがります。

 飲みの席での「バブルの頃はスゴかった話」ほど、若い女子が苦手なものはありません。しかし、もしもそんな話を、バブルを知らない女子たちも一緒に楽しめる空間があるとするなら……。

 デキるジジは、相手によって誘い方を変えます。静かな文学系女子には、「カニクリームコロッケとトリュフ卵かけご飯が感動するから」と誘い、クラブ好きなアクティブ女子には「80年代のJポップが流れてて、料理もバブルで楽しい店があるんだけど」と。

 六本木から麻布十番へ続く鳥居坂を下った信号の角。店の名は「歌かき京ょう」。地下に下りてドアを開ければ、懐かしい歌謡曲が流れ、ジジにとっては80年代〜バブルの頃にタイムスリップしたような異空間です。

 カウンター席に座ると、『GORO』や『明星』などの雑誌やラジカセ、みんなが夢中になったアイテムが当時のまま並んでいます。「ええ、あれサンタフェ? 宮沢りえのヘアヌード」と女子のテンションも上がり、ジジも得意げに「見て、少年隊!」「若〜い! 当時は少年だったんですね」と興味を引くので、単なる「あの頃はスゴかった話」とは違った展開が早くも始まります。

 女子が喜ぶパクチーサラダと、ウニ・いくら・キャビアといったバブルなツマミで白ワインをあおり、盛り上がっていると、ある印象的なイントロに女子が反応……「ええ〜!マジ? 私、〝秋桜(コスモス)〞、大好き!!」山口百恵が歌う当時の貴重な映像がモニターに映し出され、マランツのアンプ&JBLの上質なスピーカーから広がる美声に、カラオケで歌ったことはあるけど百恵ちゃんをちゃんと見たことがないアラサー女子は、画面に釘付けになることでしょう。

 この店の何がスゴイって、お客の反応を見ながら優れた選曲をするセンスのいいDJならぬVJスタッフがいることです。

 カップルなら女子が盛り上がる曲に、絶妙なツナギで映像が切り替わっていくのでテンションは上がるばかりなのです。「うわ、このカニクリームコロッケ、ヤバタニエン!」「ヤバタニエン?」「おいし過ぎてヤバいってことですよ〜(笑)」

 そんな言葉の世代ギャップも楽しんでいると、中村雅俊が歌う「恋人も濡れる街角」が流れてきました。各席で思い思いに口ずさみつつも、徐々に他の客同士目が合い、一体化していきます。

 ♪「愛〜だけ〜が〜、俺を、迷わせ〜る〜」とシャウトする隣のグループを尻目に、艶ジジと女子はこんなことを耳元で囁きあいます。「この歌詞、エロいよね?」「確かに〜」「作詞作曲: 桑田佳祐……。やっぱ天才だわ。知ってる?

 ここの〝愛だけが俺を迷わせる〞の詞の裏に秘められた遊び……」「え〜、何ですか、知らないです」「実はこれ、歌うと〝ア〜、イイ〞って喘ぎ声になるでしょ。つまり、〝ア〜イイ(女の喘ぎ声)だけが俺を迷わせる〞ってことなの。桑田さんらしいエロい遊びでしょ?」「え〜〜! 深い! てか、天才!」

 そう考えると、その前の歌詞〝指先で俺をいかせてくれ〞とつながっていることに気づき、ワインを飲むペースが上がっていきます。

 夜の現役スラッガーである我々艶ジジは、こうして過去を楽しく振り返り、思いっきりバットを振っていくのです。打率が上がることを祈りながら(笑)。


文/すずきB
放送作家。1970年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中、講談社『HotDogPRESS』のライターをする傍ら、テレビ朝日「さんまのナンでもダービー」で放送作家デビュー。「秘密のケンミンS HO W」「ぷっすま」「ペコジャニ∞」など多くのバラエティ番組を構成。食べ歩きが趣味でブログに綴る他、恋愛と結婚を独自の浮気論で綴った『浮気とは「午前4時の赤信号」である。』(ワニブックス)も話題。
http://suzukib.net/


潔いパクチーだけのサラダ。わさびドレッシングが秀逸。パクチーサラダ (S)650 円(R)940 円。

自家製タルタルソースでいただくカニクリームコロッケ800 円。

おちょこサイズの小さな丼だけど内容は贅沢! おちょこ丼3個セット(ウニ、いくら、キャビア)3480 円。単品や2 個セットでの注文も可。

姉妹店の和食「十番右京」の名物料理。イタリア産のトリュフのみをふんだんに使用したトリュフ卵かけご飯1720 円。

歌京(かきょう)
東京都港区麻布十番1丁目5-8
☎︎03-3403-7255
18:00〜4:00(L.O. 3:00)
日曜