ジジカジ ≪デート≫(後編)

満足度の高いカジュアルなデートとは?

高級フレンチ、会員制バー、個室のすし屋……。
どれもとてもおいしいけれど、「デートは高いお店に連れて行けば大丈夫だろう」なんて思っていませんか?
たまには、カジュアルなデートが乙女心をくすぐることもあるのです。
元AV女優で元日経記者の作家・鈴木涼美さんが体験した世にも楽しいカジュアルなデートについての考察後編です。

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一つ、わかりやすく素敵だった、と思うカジュアルデートがある。
28歳の会社員だった時に、何度かデートした26歳年上の男性との思い出だ。

彼は輸入家具の会社を経営する、とてもおしゃれで裕福な男性だったが、高いだけで大したことのないお店に辟易としているところがあった。
接待といえば同伴といえば会食といえば瀬里奈やすきやばし次郎やサンミ高松やアッピアで、彼の哲学ではそういったお店をデートに使うなんてダサい、ということになっていた。
それでも私は彼とのデートを楽しんだし、特別お金を使われていない、なんて思ったことは一度もない。

彼が上手だったことの一つは、1回目のデートだけは、誰でも知っている高級すし屋だったことだろうか。
私はそういった店に行き慣れた彼の態度を素敵だと思ったし、初デートからそれなりの金額を払ってくれたことにもちょっとした優越感があった。
ただし、2回目のデートは蕎麦屋、3回目は食堂であった。

蕎麦屋や食堂に、単に連れて行かれたら、なんとなくうーん? という気分になりそうなものだが、そんな気分に一切させない仕掛けがそこにはあったというわけ。

どんなものだったかというと、2回目のデートの折には「昨日は接待でフグで、とにかく日本酒を飲まされたから、今日はさっぱりした蕎麦とか食べたいんだけど、どう?」と問いかけてきた。
もちろん良識的に私は、うんいいよと答える。
そこで彼は車を鎌倉まで飛ばし、もちろんフグに比べれば安価だが、特別美味しく、庭の眺めもいい蕎麦屋に連れ出してくれたのだった。

私は私で、ダイエットもしたいし、高級フレンチなんて本当は好きじゃないし、蕎麦はヘルシーで美味しく、しかもパッと鎌倉までドライブしてくれるフットワークの軽さにもキュンとした。
鎌倉まで行けばそれなりに時間もかかるし、高級車でのドライブは楽しい。

3度目のデートは、日帰りで車を飛ばして伊豆半島まで行くというプランだった。
サザエとか食べたいなぁという私の提案に、パッと「去年伊豆に行った時に漁師の奥さんたちがやっているような食堂があって、本当に美味しかったんだよね」とドライブで連れて行ってくれた。
そんなところまで気軽に行くなんていう常識を持ち合わせていなかった私は、やはりいたく感動した。

彼の提案はいつも楽しく、伊豆の食堂なんて旅行くらいでしか行けないのに、さらっと連れて行ってくれる気遣いも、帰りに漁港によって親への手土産として金目鯛を買ってくれるユーモアも、とてもスマートだった記憶がある。
いきなり都内の定食屋だったら、美味しいは美味しいのだけど……とちょっと不満だったかもしれないが、気軽な遠出は行き先がどんなカジュアルであっても、安上がり、という印象は全くない。

女の子への気遣いとして、お金をかけない場合は時間や手間、アイデアをかけて楽しませよう、喜ばせよう、という思いがあれば、女だってげんなりするどころか、本当に楽しいデートってこういうことかな、なんていうちょっとした感動だって得られるのだ。
自分自身にそんなカジュアルな手持ちがない、という人が無理をする必要はないが、友人が感動していた田舎の料理屋、なんていうところがあれば、ぜひ2回目3回目のデートに使ってみたらいいのに、と私は思う。

もちろん、いくら手間や時間をかけても、女の子としてはたまには余裕のある大人と付き合っている、という高揚感を得たいもの。
食事で少し出費を抑えたのであれば、プレゼントや宿泊先を豪華にしてみたり、時々高級店デートを混ぜてみたり、工夫のしようはいくらでもある。
少なくとも、とりあえず有名店や有名ホテルに連れて行っとけばいいだろう、なんていう考えよりは、ずっと素敵で、ずっと女の子の心に刺さるはずだ。


鈴木涼美(すずきすずみ)
1983 年東京都生まれ。慶応義塾大卒、東大大学院修了。専門は社会学。セクシー女優、日経新聞記者などを経て2014年からフリーの文筆業に。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。現在は雑誌やウェブの連載を始め、テレビコメンテーターなどとしても活動中。



イラスト/遠山晃司

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