ジジのこなし◯と✕ ジジ恋 鈴木涼美のジジの瞳に恋してる

慶応大学卒、東大大学院卒、元セクシー女優、元日経新聞記者など、多彩な経歴を持つ文筆家、鈴木涼美氏。2018年7月号より新連載開始!

「男がつらいよ」など男性研究で知られる社会学者・田中俊之氏の著作の中にこんな一文がある。

「好きこのんでおじさんと恋愛をしたい女子大生などいるはずもない」。

 田中氏の意図は無意味なプライドを捨て地に足をつけた考え方を身につけよ、という指摘に繋がるのだが、ここではそれはさておき、そこだけ読めばなんと残酷でショッキングな一文であろうと思う。そしてさらに残酷なことに、それは真実でもある。

 好きこのんでおじさんと恋愛をしたい若い女性などいない。

おじさんになれば、体力も落ち、身体は痛くなり、若い時には生えなかったところに毛が生えてくるのに、頭髪は薄くなり、精力も減退し、体臭も気になりだし、肌はくすみ、記憶力も衰える。生物としては、圧倒的に若い時分の方が優れているのだ。

 それは正しいと同時に、間違いでもある。と、いうよりも事実の総てを賄える言葉ではない。街の中に目を向ければ、素敵なおじさんは意外とたくさんいるし、素敵なおじさんに愛されたいと願う美女たちも、たくさんいるのだ。

 つまり、詳しく言うとこうなるはずだ。「好きこのんでそこらへんのおじさんと恋愛をしたい若い女性などあまりいないが、素敵なおじさまと恋に落ちたいと思う女性は結構いる」。

あとは若いもんに任せる、と現役を降りたような顔をしていても、昂ぶる心を取り戻したいと思う人はきっと多い。そんな時に、恋のきっかけが舞い降りるかどうかは、2つの条件クリアが重要ということになる。

 第一に、相手を選ぶこと。第二に、自分を磨くこと。いくら素敵なおじさまでも、年下のペットみたいな男の子が好き、という女性相手ではなかなか勝ち目は見えないし、年上の男性が好きな女性でも、素敵じゃないおじさんには振り向かない。

相手の選び方と、振る舞いや服装を含めた自分の磨き方さえ心得ておけば、生涯現役なんていう言葉は決して一部の強者のものではないはずだ。

魂に火をつけ、オヤジ若者と差をつける

✕ 若作りカンチガイ じじい

✕ 若作りカンチガイ じじい

プロフィール
年齢:55歳
職業:テレビプロデューサー
年収:1300万円
結婚歴・家族構成:28歳で結婚し
娘一人だが40歳手前で離婚
よく行くお店:広尾の老舗イタリアン、
乃木坂の古民家レストラン、時々青山や
六本木のクラブに出没
性格:テンション高めで馴れ馴れしい
すぐにfacebook で繋がろうとする
居住区:神楽坂

誰だって、老いぼれて枯れているよりは、若々しく咲いていたいだろうとは思うが、気持ちや行動がいい意味で枯れておらず、若々しいのと、若作り、とは全く別物であって、前者が多くに受け入れられるのに対して、後者は特に女性にはあまり好かれない。
無理しているように見えるし、自分に対する客観的な評価ができていないようにも感じられるからだ。

 以前、西麻布にあったXROSSというクラブに、毎週金曜日に現れ、「黒ハットおじさん」と揶揄される50代の男性がいた。
黒ハットとは彼がいつも被っていたハット帽のことで、毎回その店に慣れていない若い女性をナンパしては一緒に踊り、腰に手を回しては気味悪がられる、ちょっとした有名人だったのだが、彼の特徴を一言で言うと、不相応な若作りが全く成功していないことであった。

 ハット帽にTシャツや薄手のカットソーなどを合わせて、首からはやや時代遅れのシルバーアクセサリーを下げている。クロムハーツ風のごついベルトを締め、足元はスニーカー。
「イイ感じ」「ゲットする」などの言葉を乱用し、無理やり若い女性に媚びるその姿は、彼のその場ではやや行き過ぎた年齢をより際立たせ、彼の着ているような服を簡単に着こなす20代男性の良い引き立て役になっていたことは否めない。

 彼に対して若い女の子たちが陰でよく使っていた表現は「おっさんのくせに」というものであった。
しかし、もちろん男性の平均年齢が比較的高めのその店に来る彼女たちの中には、年齢的な意味での「おじさん」は嫌いじゃないどころか、積極的に好きだという子だって混ざっていて当然だ。

諦めと無頓着がおじさんくささを出す

勘違いすべきでないのは、「おっさんのくせに」は確かに悪口だが、年齢や肉体的な老化について言われるものではないことだ。
「くせに」と言うからには、「おっさん」にふさわしくないファッションや言動が滑稽である事実がある。若い男の子が分不相応な高級車や寿司屋を利用していたら「若者のくせに」と嫌味を言われる、構造としてはそれと同じだ。

 「おっさんのくせに」と対極にありながらも、言われたくない言葉に「おじさんくさい」がある。こちらにある問題は若作りではなく、諦めや無頓着で投げやりな気持ち、どうせ若者にはかなわないし、という拗ねた態度である。

 自分に似合う服装や好感度の高い服装などへの探究心や意識がなくなり、楽な格好、とりあえず間に合わせの服装……。それは単純に言えば、おしぼりで顔を拭く、食べた後にすぐつまようじをくわえる、ヒゲ以外の顔の体毛は伸ばし放題、体臭・口臭ケアが不十分、など、嫌われるおじさんの行動と根本的には同じものである。

見られる意識がなくなれば、これ「おじさんくさい」に突入である。
◯ インテリ系スマート & セクシー ジジ

◯ インテリ系スマート & セクシー ジジ

プロフィール
年齢:61歳
職業:歯科医師
年収:1400万円
結婚歴・家族構成:32歳で初婚、
息子が一人
よく行くお店:銀座「小熊」「鮨 いわ」、
Bukamura「ドゥ・マゴ・パリ」、
新宿「猫目」
性格:温厚、博識
居住区:世田谷区

大人の男としての自信が素敵なおじさんへの第一歩

企業にいた頃、既婚・独身にかかわらず、部下の女性から頼りにされたり、好かれたりする上司と、悪いことをしていないのに愛されない上司の境目について考えた。
もちろん、顔がかっこいい、背が高く清潔感がある、と言った要素と無関係ではないが、秀でた外見でなくとも尊敬され、信頼されるおじさまというのはいる。  

彼らは若者と同じところで戦おうとはしていない。かといって、嫌なおじさん臭さ、とも無縁である。彼らの特徴を簡単にいうと、若者にはない色気、落ち着き、大人っぽさ、知性、知識、お金などに裏付けられた大人の男としての自信があることだ。

そのうち3つでも若者が真似できない領域に達していれば、女性側としても若者の代替物としての恋愛対象ではなく、積極的に素敵なおじさまと恋に落ちたい、という気持ちがわく。
◯ リッチ系 おしゃれ&チャーミング ジジ

◯ リッチ系 おしゃれ&チャーミング ジジ

プロフィール
年齢:57歳
職業:広告代理店から30代で
独立して会社経営。本業とは別に
合気道の師範
年収:2800万円
結婚歴・家族構成:バツ2、
今は犬と暮らしている
よく行くお店: 
広尾「マルゴット・エ・バッチャーレ」
性格:代理店時代に比べると
随分落ち着いたが、今もお祭り好き
居住区:横浜

素敵なおじさまへの脱皮と目指すべき方向性

歳をとることで、失うものもあれば得るものもある。失いつつあるものにしがみつき、得ているものに無頓着であればあるほど、人の振る舞いや見た目は滑稽になる。

例えば岩城滉一、石田純一、ジョージ・クルーニー、ラッセル・クロウ、ビル・クリントン、誰もが、若者にかなわないどころか、若者と大差をつけた魅力を放っているのは間違いない。

 もちろん、ほとんど天然の器量でその域に達する人もいるだろうが、一般的なおじさんから素敵なおじさまへの脱皮だって、可能なはずだ。おそらく、目指すべき方向は2つある。

 一つは、若者にない立場や財力を惜しみなく使って若者に差をつける路線。
2018年現在、都内にマンションと車を持つだけでも、20代男性にしてみれば現実味のないものになりつつある。
ドライブや高級店に誘い、おじさんくささが滲み出ないように気をつけるだけで、大人の男としての勝負はできる。身に着けるものが、成金ではない趣味の良い高級品であることや、カジュアルな品物にそれなりの代金を支払えるようになると、これは若者には真似できない。部下や後輩に慕われている社会的地位なども武器になる。

 また、財力にものを言わせるのに抵抗があれば、もう一方の武器、知性や知識を身につけることができる。
いわば、知的で博識な大人をめざす路線。スポーツ新聞や全国紙の三面記事ではなく、忙しない20代や30代ではなかなか読むことのなかった古典や長編小説などを手始めに、少しジャンルを絞って知識を深める。
そにちょっとした大人の作法が加われば、これもまた多忙で欲深い若者としっかり差がつく。

 要は、まだギリギリ40代であるとか、今の60代はまだまだ若い、など年齢的に過ぎたものにしがみつくのをやめ、これまでできなかった勝負にシフトしていくことが重要なのだ。
生物的に優れる若者と差をつけるなら、人間らしさ、広義の文化や知識で戦っていくしかないのだから。

鈴木涼美(すずき・すずみ)1983 年東京都生まれ。慶応義塾大卒、東大大学院修了。専門は社会学。セクシー女優、日経新聞記者などを経て2014年からフリーの文筆業に。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。現在は雑誌やウェブの連載を始
め、テレビコメンテーターなどとしても活動中。